大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 昭和30年(レ)20号 判決

控訴人 日東商事株式会社破産管財人 渡辺泰敏 外一名

被控訴人 佐久間密意

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を次のとおり変更する。被控訴人等は控訴人に対し連帯して六千円及びこれに対する昭和二十八年四月一日以降完済まで日歩二十銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の連帯負担とする。」との判決を求め、被控訴人等は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

事実関係及び証拠関係は原判決当該摘示と同一であるからこゝにこれを引用する。

理由

職権で調査するに、記録編綴の決定謄本によれば、一審原告日東商事株式会社は、昭和三〇年一月一〇日午前一〇時水戸地方裁判所で破産の宣告を受けたことが認められるから、同原告の請求原因からして、その破産財団に関する訴であることが明らかである本訴は、右日時に中断したわけである。従つて昭和三〇年一月一〇日午前一〇時の原審口頭弁論期日において行われた訴訟手続は、右中断後の訴訟手続であつて、法律に違背することはもち論であり、原判決は、同日終結された口頭弁論に基くものであるから、その違法なこともまたいうまでもない。しかし被控訴人らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。との判決を求め、控訴人の請求原因に対する答弁は、原審で主張したとおりであり、立証方法も原審における立証を援用する。」との昭和三〇年四月二六日附答弁書を当裁判所に提出し、右答弁書は、昭和三一年三月二日午前一〇時の当審口頭弁論期日に陳述したものとみなされたのであるから、被控訴人らは、これによつて裁判所及び日東商事株式会社が中断中である昭和三〇年一月一〇日午前一〇時の原審口頭弁論期日でした訴訟行為に対し責問権を放棄したものと認められ、右訴訟行為の無効を主張する権利を失つたものと解すべきであり、また中断中に前記訴訟行為をした日東商事株式会社(破産管財人)がみずからその無効を主張することもできないのであるから、原判決は、結局正しい手続で行われたと同じ結果に帰したものといわなければならない。

進んで本案について考えるに、

日東商事株式会社が、昭和二七年一一月一日被控訴人佐久間に金員を貸しつけたこと、被控訴人馬場が、右債務について連帯保証をしたことは、当事者間に争いがなく、当裁判所は、原判決と同じ理由で、本件消費貸借は金六、五〇〇円の限度において成立したと認めるものであり、他に同会社が、被控訴人佐久間に対し現金を交付したと同一な経済上の利益を与えたとの主張も立証もない本件では、右金六、五〇〇円の消費貸借が成立しただけであると認定するほかないわけであるから、右金額の限度における消費貸借成立の点に関する原判決の理由をここに引用する。

ところで、甲第二号証の一、乙第一号証を総合すれば、同会社は、金一〇、〇〇〇円を被控訴人佐久間に貸しつけたものとし、その支払方法を昭和二七年一一月から昭和二八年八月まで毎月末日に貸付元金の一〇分の一である一、〇〇〇円及び右元金に対する月四分の割合による利息四〇〇円合計一、四〇〇円ずつを支払うこと、右月賦金の支払を一回でも怠ると、期限の利益を失い、残債務全部を一時に支払い、且つこの場合には日歩五〇銭の損害金を付することと定めたことが認められる。

次に被控訴人らの弁済の抗弁について検討するに、

被控訴人佐久間は、昭和二七年一一月三〇日、同年一二月二九日、昭和二八年一月三一日、同年三月一〇日、それぞれ一、四〇〇円ずつ、昭和二九年二月一日五〇〇円、以上合計六、一〇〇円を支払つたと主張するが、乙第一、二号証によれば、同被控訴人は、昭和二七年一二月二九日、昭和二八年一月三一日、同年三月一〇日、それぞれ一、四〇〇円ずつ、昭和二九年二月一日五〇〇円、以上合計四、七〇〇円を支払つたに過ぎないことが明らかである。右抗弁事実のうち、昭和二七年一一月三〇日一、四〇〇円を支払つたとの点については、これを認めしめる証拠がない。もつとも乙第一号証には、同被控訴人が、昭和二七年一一月一日一、四〇〇円を支払つた旨の記載があるが、これを弁済と認め得ないことは、原判決のこの点に関する理由と同一であるから、右理由をここに引用する。なお、同会社は、昭和二七年一一月分から昭和二八年二月分まで四回の月賦金の支払を受けたと主張し、被控訴人らは、一、四〇〇円ずつ四回支払つたと抗弁したのであるから、前記認定の一、四〇〇円ずつ三回の支払のほか、他の一回分についても、同会社の右主張は、いわゆる先行自白となるのではないかとの疑もあるが、甲第一号証原審証人記野亨の証言その他当事者弁論の全趣旨を総合すれば、同会社は、本件貸付の際、被控訴人佐久間に現実に交付することなく、貸付充当金名義で預つておいた一、〇〇〇円を弁済に充てたので、他の一回の支払を受けたことになつたものであることが推認されるが、右一、〇〇〇円については、当裁判所は、消費貸借の成立を認めないのであるから、同会社が右金額を同被控訴人から預つたものとなるわけはなく、従つて弁済に充当されるべきいわれもないのである。つまり同会社は、一〇、〇〇〇円の貸借の成立を前提として、四回分の支払を受けたと主張したのであるが、当裁判所は、右一、〇〇〇円などについては消費貸借の成立を認めないのであるから、同会社の右主張は、先行自白とはならない。

そこで、被控訴人佐久間の支払つた金員の弁済の充当について考えるに、一、四〇〇円ずつ三回分四、二〇〇円が元利金の支払にあてられたことは当事者間に争いがない。そして、利息制限法の規定に超える利息であつても、任意にこれを支払つたときは、有効な弁済となることはいうまでもないが、同被控訴人が、一〇、〇〇〇円の債務の存しないことを知りながら、これに対する月四分の利息として四〇〇円の支払をしたと認めしめるに足りる証拠がないから、右四、二〇〇円のうち七八〇円は本件貸付元金六、五〇〇円に対する月四分の割合による三回分の利息に、残額三、四二〇円は右貸付元金のうちに、支払われたことになるのであるから、元金残額は、三、〇八〇円となるわけである。なお以上の認定によれば、同会社は、前記特約により、昭和二七年一二月一日残債務全部の支払を求めることもできたはずであるが、同会社は、右特約による期限の失効を宥恕し、昭和二八年四月一日残債務全部の弁済期が到来したと主張するものであるから、同被控訴人は、同日前記残債務三、〇八〇円につき遅滞に付されたものといわなければならない。さらに同被控訴人の支払つた五〇〇円について、同人が弁済の充当をしなかつたことは、その弁論の全趣旨で明らかであり、また乙第二号証によるも同会社が弁済の充当をしたことが明らかでないから、右五〇〇円は、本訴貸付残元金三、〇二〇円に対する昭和二八年四月一日から同年六月二一日までの日歩二〇銭の割合による損害金及び同月二二日の同率の割合による損害金六円四銭のうちの四円七二銭の弁済に充当されるべきである。従つて被控訴人らは、控訴人に対し連帯して昭和二八年六月二二日分の損害金残額一円三二銭、貸付残元金三、〇二〇円、これに対する昭和二八年六月二三日から完済まで前記割合による損害金、を支払うべき義務があるのであるから、本訴請求は、右限度において正当として認容すべきものである。

原判決は、右認定よりも控訴人に有利であるから、本件控訴は理由がなく、これを棄却すべきものであるから、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規短三 小堀勇 松田富士也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例